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高松高等裁判所 昭和39年(く)34号 判決

被告人 中野義照

決  定

(被告人氏名略)

右の者に対する傷害、暴力行為等処罰に関する法律違反被告事件について、昭和三九年一〇月二日徳島地方裁判所がなした保釈許可決定に対し、検察官から抗告の申立があつたので、当裁判所は次のとおり決定する。

主文

原決定を取消す。

本件保釈請求は、これを却下する。

理由

本件被告事件の記録によれば、被告人は、昭和三九年八月二六日別紙記載の被疑事実にもとづき、勾留状の執行を受け、更に同年九月四日右勾留期間を一〇日間延長されていたところ、同年九月一四日右勾留の基礎となつた被疑事実と同一性を有する別紙公訴事実第二の事実及び同第一の傷害の事実につき徳島地方裁判所に起訴されたものであるが、同年九月二九日弁護人梅田鶴吉から保釈の請求があり、同年一〇月二日原裁判所が保釈金額を一五万円とする等の条件を付して保釈許可の決定をなしたことが認められる。

そこで、被告人には権利保釈の除外事由としての刑事訴訟法第八九条第三号及び第四号所定の事由が存し、また本件犯行(暴力行為等処罰に関する法律違反の犯行)の罪質、情状に照らし、裁量保釈を考慮すべき事情もないのに、被告人に対する保釈を許可した原裁判所の決定は、右各事由の存否等についての判断を誤つたもので取消されるべきであるとの検察官の主張について考察する。

先ず、権利保釈の除外事由としての刑事訴訟法第八九条第三号所定の事由の存否について考えて見るのに、本件公訴にかかる暴力行為等処罰に関する法律第一条の三後段の本件犯行が、長期三年以上の懲役にあたる罪であり、本件記録によれば、被告人は暴行、傷害、暴力行為等処罰に関する法律違反等所謂暴力事犯罪により従来数回に亘り懲役刑又は罰金刑の処罰を受けた前歴を有しており、右暴力事犯はいずれも被告人が徳島市内に勢威を振つている的屋の集りである森会に加入した後の犯行であること、しかも右森会は暴力団組織としての性格も有しており、被告人は同会の幹部であること、本件犯行も被告人が右の如き暴力団組織員として活動している生活環境に起因して、右暴力団組織を背景として犯されたものと考えられる事情の存すること等が認められるから、同号所定の事由があるものというべきである。

次に、同条第四号所定の事由の有無について検討して見るのに、本件記録によれば、本件第一回公判期日において、被告人は本件犯行の事実を認め、検察官請求の本件被告事件についての被害者等関係人の各供述調書及び被告人の自供調書は、すべて被告人の同意のもとにその取調を了しており、その記載内容は本件公訴事実に照応していること等に照らせば、被告人において罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由はないものと認めざるを得ない。もつとも検察官は、弁護人より証人として申請されている板東健太郎は、右森会会長平井辰夫の舎弟分にあたる者であり、かつ本件犯行の現場に居合せたものであるから、被告人を釈放すれば、右の如き右板東と被告人との関係に照らしても、同人と通謀して被告人に有利な証言をさせるように工作をする虞れがあることは明らかであるから、罪証隠滅を企てると疑うに足りる相当な理由があると主張し、その虞れなしとは断じ難いものがあるけれども、前記の如く本件公訴事実に関する検察官請求の証拠は、既にすべてその取調を了していることに照らせば、右の如き事由の存することが窺われるとしても、もはや被告人には刑事訴訟法第八九条第四号所定の事由は存しないものと解するのが相当である。

右の如く被告人には刑事訴訟法第八九条第三号所定の事由が存するものと認められるところ、裁量により保釈を許すことの当否について検討して見るのに、同号所定の事由の存否について考察した前記の各事情を考慮すると、被告人の拘束を解いた場合、たとえその際被告人に法定その他の条件を付したとしても、再び本件犯行と同種の暴力事犯を累ねる虞がないとは必ずしも言い難いものがあり、被告人の生活環境等諸般の情況を綜合して判断すると、被告人に対しては刑事訴訟法第九〇条にいう保釈を許すべき適当な事情が存するものとは認められない。従つて、被告人に保釈を許すのは当を得ないものと認められるから、結局検察官の本件抗告は理由があるものというべきである。

なお、検察官は、本件保釈許可決定には、本件公訴事実と同種犯行を行つたときは保釈を取消すこととの条件が付されているが、本来保釈許可決定に付すべき適当な条件とは、被告人の逃亡の防止、公判廷への出頭の確保をはかるための条件を指称し、再犯防止のための条件は包含されていないものであつて、かかる条件を付することは明らかに刑事訴訟法第九三条第三項の趣旨に反するものであると主張し、本件記録によれば本件保釈許可決定には右主張の如き条件が付されていることが明らかであり、かつ右の如き条件は所論の如く保釈許可決定に付すべき所謂適当な条件に包含されないものと解すべきである。

よつて、刑事訴訟法第四二六条第二項により原決定を取消し、本件保釈の請求を却下することとし、主文のとおり決定する。

(裁判官 横江文幹 東民夫 梨岡輝彦)

被疑事実(略)

公訴事実

被告人は、

第一、昭和三九年七月八日小松島市小松島町字外開酒井照男方前附近道路上において、酒に酔つて田辺守(当二八年)よりからまれて立腹し、同人の顔面等を手拳で数回殴打した上突き倒す等の暴行を加え、よつて同人に対し全治約五日間を要する右顔面裂創、頭部打撲等の傷害を負わせ、

第二、傷害、暴行等を反覆していた者であるが、同年八月二一日徳島市八百屋町三丁目宝扇商事株式会社徳島給油所の事務所内において、四国コカコーラーボートリング株式会社営業部長安岡勇に対し、同会社が同月二〇日より行われた盆踊りに際し、右給油所敷地内にコカコーラーの臨時販売所を設けたことにつき森会に無断で設置したと因縁をつけ「大きな会社がお盆の売り上げで生活をたてているものを潰すようなことをしてもえゝんか。懲役を覚悟でお前の出している店は全部叩き潰してやる。」等と申し向け、自由、財産に対し害を加うべき旨通告し、もつて常習として脅迫をなし

たものである。

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